特定技能「宿泊」|外国人を雇用するために必要な準備・ステップ・注意点とは?

 

宿泊業界の現状

宿泊業界は、2020年を迎えても衰えを全く見せず、発展を続けています。観光庁の発表では、2018年の訪日外国人は3000万人を突破し、今後も五輪などを経て増加を続け、2030年には6000万人に昇ると試算されるほど。ますます、来日観光客の増加と、宿泊数の増加が考えられます。

一方で、受け入れ体制には不安が残ります。ホテルは年々増加傾向にある一方で、昔ながらの旅館は年々減少。そのため、宿泊施設の総数は差引では10年前と大きく変わっていません。また、ホテルが東京近辺に林立する一方で、地方部の宿泊施設が衰退し、ホテルの首都圏一極集中が起きています。

そんな中で、宿泊業界の運営面においては生産性向上が叫ばれています。IT化を行うなど、業務効率化を高める動きは各社に見られますが、まだ外国人6000万人を受け入れるためのキャパシティに追いついているとは言い難い状況です。

このため、海外人材の採用が2019年の4月より解禁。この記事では、海外人材を宿泊業界が採用する際に必要な準備、ステップ、注意点を、なるべくわかりやすく解説していきます。

日本における宿泊業界の人手不足

現状、外国人観光客の受け入れ体制は万全とはいえない日本。特にボトルネックとなっているのが人材不足です。今後ますます、人手不足が激しくなっていくと言われています。

近年も、宿、旅館、ホテルそれぞれが求人募集を出し、就職説明会を行ってはいますが、既に業界の人材は3万人不足。業務に支障が出始めている宿泊施設も多くあります。また今後は10万人程度の人材不足に陥る可能性があり、その解決策として海外人材の活用が模索されてきました。

「特定技能(宿泊)」「技能実習」

法務省は2018年、新たな外国人材受入れのための在留資格の創設等を行う法律を整備し、2019年4月より施行しました。この法律は簡単に言えば、海外人材を採用して、国内の人材不足を緩和するための法律。「出入国管理及び難民認定法」と「法務省設置法」の一部改定がこれにあたります。

人材不足の深刻な宿泊業界にも、外国人採用を行うためのメスが入った今回の法改正。新たに「在留資格(宿泊)」が追加されました。ホテル・旅館が海外人材の在留資格である「特定技能1号」の対象とされ、特定技能ビザで日本人スタッフとほぼ同じ業務にあたることが出来るようになったのです。そのため、制度を活かすことで人材不足やインバウンドの対応に役立てることが可能になったと言えます。

特定技能1号とは、「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」と法務省によって定義されており、要は外国人を即戦力として採用できるようになったということになります。

政府は今後、宿泊業界に対して5年で22,000人を受け入れると既に決定しており、今後、外国人採用が積極的に行われていくことが予測されます。

今回の従来の「在留資格(宿泊)」「技能実習」との違いは、シンプルに言えば条件緩和です。受け入れ国の制限が原則なくなり、そのスキームも簡略化されました。従来の技能実習は、どちらかというと外国人に対して日本の技術を伝えるという国際貢献色が強かったのですが、今回の「特定技能」では人材不足の解消を前面に押し出しているため、雇用する側にとってはかなり使いやすい制度になっています。

在留資格の特定技能「宿泊」とは

在留資格「宿泊」に該当する外国人は、観光庁によると「フロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」と幅が広い範囲の業務を行うことが出来ます。

これまでは、ホテル等で外国人を雇用する場合は「経営管理」「技能、人文知識、国際業務」といったビザが必要でしたが、今後は宿泊部門のドアマンやハウスキーピング、飲食部門のレストランスタッフや宴会スタッフとしてならば、特定技能の在留資格「宿泊」のビザで雇用が可能です。ただし、在留資格「宿泊」分野は特定技能の1号に該当するため、日本での就労は通算5年までに制限されます。5年を超えての雇用や、採用した海外人材の家族を呼び寄せて暮らすことは認められていないので、採用する予定の人材には業務を行わせる前にしっかりと5年以内の契約であることを伝えましょう。なお特定技能の2号に該当すると年数の制限なく雇用が出来ますが、現在認められている業種は建設業と造船業に限られます。

【おすすめ記事】
在留資格「特定技能」に関しては、こちらの記事をご覧ください。

特定技能の資格を取得するには(試験・申請書類・提出先)

特定技能1号を海外の方が取得する場合、試験と申請書の作成をした上で合格証明書を受け取るという3ステップが必要になります。

まずは、宿泊業技能測定試験。特定技能で新たに認められた14の業種のうち、宿泊業と外食業だけは従来の技能実習制度で認められませんでした。そのためホテルや旅館などの宿泊業で特定技能の外国人を雇用する場合、試験を受ける必要があります。この試験にパスするためには、資格取得には最低限の日本語読解力と、宿泊業務をする上で即戦力になるレベルの知識が必要となります。そのため募集をかける際は、海外のホテルや宿での勤務経験がある、即戦力人材に絞るのがよいでしょう。求人広告や現地での説明会を行い、採用資格を満たし、かつ試験にパスできる人材が必要です。試験内容などの詳細については後述します。

この試験に合格すると、受け入れ予定の企業は合格証明書を発行できるようになります。合格証明書は自動発送ではなく、企業から申請しなければ交付されないため、注意が必要です。一般社団法人宿泊業技能試験センターのホームページにある、合格証明書申請書類取り寄せフォームに必要事項を記入した上で、宿泊業技能試験センター宛へ郵送。すると、宿泊業技能試験センターから手数料納付の案内がメールで届きます。メールに従い交付手数料1万円を納付したことを確認すると、はじめて合格証明書が郵送されてきます。


受入れできる事業所・雇用形態・任せられる業務・報酬について

受け入れ時の詳細については、一般社団法人宿泊業技能試験センターが示しています。大まかには3つの注意点があり、特定技能「宿泊」を取得した外国人は

  • 旅館業法の「旅館・ホテル営業」の許可を受けている施設が対象
  • 「風俗営業法(風営法)」に該当する施設では受け入れができない
  • 風営法の「接待」を行わせることも禁止

また雇用は原則、直接雇用の正社員に限られます。間接雇用(人材の派遣会社を介する等)は農業と漁業を除いて、法律上不可能です。また報酬条件も日本人と同等か、それ以上が必要です。

特定技能の外国人が出来る業務は「フロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」と定義されていますが、それ以外の業務を全く認めないわけではありません。実際、宿泊業技能試験センターでも「これらの業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:館内販売、館内備品の点検等)に付随的に従事することは可能」と定めています。理由は、通常従事することとなる業務については、本来業務と関連性があると考えられるというのが法務省の見解であるため。もちろん、多少の範囲外業務は認められているとはいえ、任せすぎるのはリスクが大きいと言えるでしょう。なるべく明文化されている業務を中心に外国人人材を活用していくのをおすすめします。 なお「技能実習」と異なり、同業種間での転職は認められています。


特定所属機関(受入れ企業)の注意点

企業がこうした特定技能の外国人人材を募集し、採用する前に気をつけたいこととして2点が挙げられます。

ひとつは、就労ビザ申請において各宿泊業者から入国管理局へ向けての審査が必要となることが挙げられます。技能実習の場合は事業協同組合が一括して申請を行っておりましたが、特定技能に関しては受け入れ側のホテルや旅館が個別に申請を行う必要があります。審査も行われるため、経営状況が芳しくない場合、受け入れが難航する可能性があります。

またもうひとつは、周到な受け入れの準備が必要なことが挙げられます。雇用の計画はもちろん、報酬や住居などの生活面、語学の支援やスタッフとの交流など、さまざまな準備やシミュレートが必要です。

受け入れ体制としては、住居面の支援が特に必要になってくることと思われます。たとえば農林水産省が示す農業分野の特定技能外国人受け入れ体制としては、

1宿舎は火災による危険のある場所、衛生上有害な作業現場、被災の恐れがある場所などの付近を避けること
2寝室が2階以上にある場合は、簡単に屋外に通じる階段を2カ所以上設けること
3 十分な消火設備を設置していること
4 寝室は一人一人の十分なスペースを確保し、日当たりが良く、採暖の設備を設けること
5 就眠時間が違う2組以上の実習生がいる場合、寝室を別にすること
6 食堂又は炊事場は衛生環境を整備し、病害虫を防ぐこと
7 トイレ、洗面所、洗濯場、浴場を設置し、清潔にすること
8 宿泊施設が労働基準法に基づく「事業の附属寄宿舎」に該当する場合は、所定の届出等を行っていること

と、かなり細かく指定されています。技能実習生の劣悪な労働環境が問題となったこともありましたが、こうした法律で定められた各種ルールに違反した場合、30万円以下の罰金や過料を請求されることがあるので、注意が必要です。

また、海外人材輩出国での整備がまだ追いついていないという現実もあります。朝日新聞が12月17日に報じたところによると、特定技能の資格を得た外国人は1732人にとどまっており、現状で準備が整っているのはフィリピン、カンボジア、ネパール、インドネシアのみ。海外人材の送り出し最大手のベトナムでは、まだ整備が追いついていません。そのため求人倍率は高いことが予測され、人材不足のカンフル剤となるにはもうしばらく時間がかかりそうです。  逆にこのタイミングから準備をしておくことで、優秀な特定技能の人材を採用することに繋がるとも言えます。既に3万人不足する宿泊業の人材、しかし海外からやってくるのは22000人です。早めの対応を心がけることをおすすめします。

受入れ人数の上限

宿泊の分野に関しては、特定技能の外国人受け入れに上限数はありません。現状で上限を設けているのは建設と介護のみ。両者は、受け入れ外国人の上限を受け入れ先施設の常勤職員と同等と規定しています。簡単に言えば日本人と同じ数まで特定技能の外国人を受け入れ可能ということであり、今後、ホテルや旅館の特定技能人材に上限が設けられるとしても、現在の介護・建設分野に準じた形になることが予測されます。

特定技能協議会への加入

特定技能の在留資格(宿泊)で外国人を雇用する場合、受け入れ企業は特定技能協議会に加入をする必要があります。特定技能外国人の保護や受け入れ、また体制づくりのために設置されており、特定技能外国人が入国した4カ月以内に加入をする必要があるので、注意が必要です。

業種によっては加入を任意としているところもありますが、宿泊業界においては加入義務があります。特定技能の外国人を採用する予定がある場合、国土交通省の所管する、宿泊分野特定技能協議会に加入しましょう。なお、この団体に加入したからといって、宿泊事業者団体の加盟が義務づけられることはありません。


宿泊技能評価試験

宿泊技能評価試験は、宿泊業界における技能測定を行う試験です。この試験で必要なのは、日本語力とホテルや旅館における業務の知識です。試験を受験するには、日本語能力試験のN4以上、または国際交流基金日本語基礎テストに合格している必要があります。この「N4」について日本語能力試験を運営するJLPTは、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な文章を読んで理解できる」「ややゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できる」と定義している。業務をこなすのに必要な日常会話レベルの日本語力は必須と言えます。

受験資格

宿泊技能評価試験の内容は、日本語でのテキスト試験と、口頭での実技試験の2つです。受験資格は17歳以上の外国人であればOK。一方で受験資格が認められない場合として、いくつか例が挙げられますが、大まかに分類すると以下の通りになります

  • 留学生で退学、除籍になったもの
  • 失踪した者
  • 別の目的で日本に来ている者
  • イラン人

上記4例の詳細を記すと、以下のようになります。一般社団法人 宿泊業技能試験センターが示した、受験資格が認められない人材として該当するのは、

・退学や除籍となった留学生
・失踪した技能実習生
・特定活動(難民申請)で在住する者
・在留期間が3カ月以下の者
・短期滞在の在留資格の者
・「外交」「公用」の者
・イラン・イスラム共和国の旅券を持つもの
※イラン・イスラム共和国民が禁じられている理由は、同国が日本からの強制送還に応じないため。日本から送り返されたイラン人が母国にも入れないというトラブルを避けるため、設定されています。
・在留資格「技能実習」
・在留資格「研修」
・在留資格「特定活動(日本料理海外普及人材育成事業)」
・在留資格「特定活動(特定伝統料理海外普及事業)」
・在留資格「特定活動(製造業外国従業員受入促進事業)」
・在留資格「特定活動(インターンシップ)」
・在留資格「特定活動(外国人起業活動促進事業)」
・在留資格「経営・管理(外国人創業人材受入促進事業)」

逆に、上記に該当しない17歳以上の人物であれば受験は可能です。5年で22,000人を受け入れるという目標があるため、技能実習生の時代と比べれば遥かに受け入れ・採用ハードルは低いといえます。

試験日程・開催場所

試験開催は年2回行われ、2020年の1回目は国内8ヵ所で行われる予定です。場所はそれぞれ、

  • 札幌
  • 仙台
  • 東京
  • 名古屋
  • 大坂
  • 広島
  • 福岡
  • 那覇

で行われます。

試験の所要時間は4時間。1時間で30問のマークシートと、口頭での実技試験に分かれ、宿泊施設における業務の基本事項が出題範囲です。また、今後は海外2ヵ所、

  • ベトナム
  • ミャンマー

でも実施を予定しています。

ウェブから申し込むことが可能で、申込みの際は在留カードかパスポートと、証明写真が必要です。また受験料として2000円も必要です。

試験内容・サンプルテキスト問題集

一般社団法人宿泊業技能試験センターが公開している筆記試験の問題には、以下のようなものがあります。回答はテキストの問題を○✕で答えるマークシート式。

(例)

・ホテルのチェックインとチェックアウトの時間は法律で定められている。 (✕)
・日本に住所のない外国人のお客様には、チェックイン時にパスポートの提示を求めてコピーを保管する。(○)
・ホテルを宣伝するためにホテルの館内で撮影した写真であれば、お客様が写り込んでいても、誰にも許可を得ずに使用することができる。 (✕)
・メニューの注文を受ける時は、お客様に食物アレルギーがあるか確認する。(○)
・予約のあるお客様をテーブルに案内する時は、予約を入れた方を必ず上席に案内する (✕)

(https://caipt.or.jp/tokuteiginou)

「一般社団法人 宿泊業技能試験センター」の創設と位置づけ

外国人の特定技能(宿泊)を受け入れ希望する場合は、外国人と採用企業の間に一般社団法人宿泊業技能試験センターが仲介する仕組みとなっています。法人は2018年の9月に設立されており、主に宿泊業の特定技能在留資格取得に必要な評価試験を実施する法人として運営しています。

特定技能(宿泊)の外国人採用においては、試験の合格者と採用企業との間で情報の仲介や申請情報のマッチング、合格証書の交付などを行う機関という位置です。

外国人人材の採用時には、この法人が発行する合格証明書が必須となるため、外国人の特定技能生に内定を出した際は同法人に問い合わせた上で、証書の交付申請が必要となります。

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