特定技能「漁業」|制度のポイントを紹介
特定技能「漁業」とは?
特定技能「漁業」は、 2019年4月に出入国管理法(入管法)が改正され、新しい在留資格「特定技能」により、外国人特定技能人材の受け入れが漁業・水産業でも可能となった新たな在留資格です。
これにより、漁業・水産業分野の人手不足緩和が期待されます。
この特定技能分野においては、受け入れの上限人数が予め定められており、在留資格「特定技能1号」は、5年間で最大34万5150人。
特定技能「漁業」分野では、最大6,300人(9,000人から変更)に設定されていましたが(令和6年3月迄)、令和6年4月から5年間の受入れ人数としては17,000人が見込まれています。
2023年6月末での特定技能1号における在留外国人数は173,089名と発表。
漁業分野に関しては、2,148名です。
それでは、特定技能「漁業」について説明します。
「漁業」の現状
まず、特定技能人材の受け入れが始まった背景を見てみましょう。
日本の漁業・水産業は、後継者不足による高齢化が深刻であり、働き手は過去20年間で半減しています。
平成10年の27万7000人から、平成30年の15万1701人まで大幅減。
最盛期の1930年代と比較すると7%程度にまで産業規模が小さくなっています。
このため、有効求人倍率は漁船員が3.5倍、水産養殖作業員も2.5倍を超えています。(全業種の有効求人倍率は1.5倍)
現在も労働人口の減少に歯止めがかかっておらず、特定技能人材など労働力支援が必要とされています。
農林水産省では、補助事業等により、①漁業就業相談会や漁業体験、②長期研修、③次世代人材投資、④経営技術向上支援を行っており毎年2,000人近い新規就業者を増やしていますが、「生産性の向上及び国内人材の確保に向けた最大限の努力を不断に行ったとしてもなお、人手不足の状況を直ちに改善することが困難である」と発表しているほどです。
課題とされているのは高齢化と、漁業・水産業の生産性の低さです。
地方の漁村では50代が若手とされており、その原因は収入の低さにあると言えそうです。
漁業経営調査報告によると、漁労収入から漁労支出を差し引いた漁労所得は2021年で約227万円。
同年のサラリーマン平均年収が443万円と言われているため、中所得者層の半分程度の収入で生活を強いられます。
また漁船のメンテナンス、漁網などの漁具の消耗、漁獲量の不安定さなど、構造的な問題を抱えています。
その一方で、人手不足の国内漁業・水産業界においては外国人特定技能人材の受け入れを積極的に行っていました。
それが「技能実習」です。
この制度は、発展途上国を中心に、海外人材に国内の漁業・水産業技術を教えていく「人づくり」という慈善事業を押し出しつつも、実際の制度運用においては技能実習生を国内の人手不足解消を主目的で受け入れるなど、雇用者と技能実習生の間にギャップが有りました。
外国人技能実習自体は、1993年に制度化されました。
当初はカツオ漁から始まり、徐々に技能生の受け入れ体制が整い、不適切な扱いを防止するための法整備が2010年代から行われ、技能実習移行対象は現在2職種10作業に至っています。
特定技能「漁業」 受入れ可能な人材
技能実習と比べて、特定技能はどうでしょうか。
特定技能人材と職種を確認していきます。
特定技能「漁業」で受け入れ可能な人材の在留資格として「特定技能」は「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類がありますが、漁業では「特定技能1号」が受け入れ可能です。(特定技能2号の受入れが可能となることが令和5年6月に閣議決定されました。開始時期は未定で、開始時期が決まり次第 出入国在留管理庁のHPで発表されます。)
特定技能1号は、最長5年の受け入れが可能で、家族の帯同は不可となっています。
通算で5年の雇用が可能です。5年間通しで雇用することも可能ですし、例えば農閑期に帰国してもらい、繁忙期に来てもらうなど半年ごとの業務であれば10年間(日本での労働期間が通算5年)に渡り使役が可能です。
特定技能のほうが、技能実習よりも柔軟な雇用が可能となっています。
技能実習が「人づくり」という要素で形成されているのに対し、特定技能は「人手不足の解消」に重きが置かれています。
そのため特定技能で受け入れる人材は、基本的に経験者です。
健康な18歳以上で、日本語が多少話せる、即戦力人材に限定されています。
条件は、
①18歳以上
②技能実習2号を良好に修了しているもしくは技能試験と日本語試験に合格している
上記の条件を満たさない場合は人材の登録や受け入れができません。
在留資格「特定技能」を手に入れる方法としては4通り考えられます。
① 留学生への資格取得支援
国内に留学している人材に国内試験を受けてもらう方法です。
留学しているため語学力の心配が少なく、また接点も多くなるでしょう。
② 技能実習2号を良好に修了している
また、現在すでに技能試験2号の在留資格を取得している場合、技能実習2号から在留資格を特定技能に移行させることができます。
例えば、すでに受け入れている技能実習生を特定技能人材へ移行する場合や、過去に受け入れていた技能実習生を再び呼び戻し、特定技能人材として受け入れるケースが考えられます。
地方出入国在留管理局への申請が必要になりますが、スムーズな移行が可能です。
漁船漁業職種で技能実習生に任せられるのは9作業です。
「かつお一本釣り漁業」「延縄漁業」「いか釣り漁業」「まき網漁業」「ひき網漁業」「刺し網漁業」「定置網漁業」「かに・えびかご漁業」「棒受網漁業」「ほたてがい・まがき養殖作業」が技能実習移行対象作業として認定されています。
また、養殖業職種で技能実習生に任せられるのは1作業で、「ほたてがい・まがき養殖」が技能実習移行対象作業として認定されています。
上記業種を営む漁業・水産業者の場合におすすめできる支援手法です。
③ 海外で技能評価試験・日本語試験を支援
更に、特定技能人材向けの資格取得試験を海外で行う事例が、さまざまな業種において見られるようになりました。
資格取得試験は日本とインドネシアで実施されており、大日本水産会のHPから場所や日程を確認することができます。
④ 短期来日での資格取得支援
日本国内で就業意欲のある外国人技能実習生を受け入れる場合は、国内で資格取得試験を受けてもらうことも考えられます。
日程調整やパスポート、航空券の手配等で手間は比較的かかりますが、試験を経て外国人技能実習生に日本や職場を理解してもらいやすく、海外の現地試験よりも就業後のミスマッチは少なくなるでしょう。
特定技能「漁業」において任せられる業種・業務
水産庁「特定技能外国人材の受入れ制度について(漁業分野)」によると、受け入れ可能な業務・職種は以下の通りです。
業務区分「漁業」
漁具の製作・補修、⽔産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、⽔産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛⽣の確保 など
業務区分「養殖業」
養殖資材の製作・補修・管理、養殖⽔産動植物の育成管理、養殖⽔産動植物の収獲(穫)・処理、安全衛⽣の確保 など
また、特定技能人材にこれらの資格と関係しない付属業務を任せること自体は可能です。通常従事することとなる業務については、本来業務と関連性があると考えられるというのが法務省の見解であるためです。
もちろん、多少の範囲外業務は認められているとはいえ、任せすぎるのはリスクが大きいでしょう。
基準としては、同じ漁業・水産業者等の下で作業する日本人が普段から従事している関連業務(点検・換装・清掃加工、生産物の運搬や陳列、研修。市場での選別や仕分け等)は従事可能です。ただし、関連業務を主体として従事させることはできません。
特定技能所属機関(受入れ企業)の要件
受け入れ法人側にも要件があります。
外国人人材を受け入れるための条件
① 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
出入官庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
③ 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
④ 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
⑤ 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
⑥ 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
⑦ 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
⑧ 支援に要する費用を、直接又は間接に外国人に負担させないこと
⑨ 労働者派遣の場合は、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であ
るほか、派遣先が①~④の基準に適合すること
⑩ 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
⑪ 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
⑫ 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
⑬ 分野に特有の基準に適合すること(※分野所管省庁の定める告示で規定)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf
以上の条件をクリアしたうえで、以下の条件にもクリアする必要があります。
(2)特定技能所属機関等に対して特に課す条件
水産庁「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/attach/pdf/tokuteiginou-22.pdf
ア 労働者派遣形態(船員派遣形態を含む。以下同じ。)の場合、特定技能所属機関となる労働者派遣事業者(船員派遣事業者を含む。以下同じ。)は、地方公共団体又は漁業協同組合、漁業生産組合若しくは漁業協同組合連合会その他漁業に関連する業務を行っている者が関与するものに限る。
イ 特定技能所属機関は、「漁業特定技能協議会」(以下「協議会」という。)の構成員になること。
ウ 特定技能所属機関は、協議会において協議が調った措置を講じること。
エ 特定技能所属機関及び派遣先事業者は、協議会及びその構成員に対し、必要な協力を行うこと。
オ 漁業分野の1号特定技能外国人を受け入れる特定技能所属機関が登録支援機関に支援計画の全部又は一部の実施を委託するに当たっては、漁業分野に固有の基準に適合している登録支援機関に限る。
カ 特定技能所属機関は、特定技能外国人からの求めに応じ、実務経験を証明する書面を交付すること。
「漁業特定技能協議会」に加盟し、協議会の活動や特定技能人材の育成に協力をすることが必要です。
この漁業特定技能協議会とは、水産庁、大日本水産会、全国漁業協同組合連合会、全日本海員組合、全国海水養魚協会が幹事を構成する協議会で、協議会構成員が相互連絡することで特定技能人材の保護や育成、協議会構成員の連携強化を図るというものです。協議会では受け入れに関する事柄だけではなく、後述する特定技能人材の転職の際の相談も行っています。
加盟申請に必要な書類は、所属する2号構成員である団体(またはその傘下団体)へ提出する必要があります。手続き等の詳細については、2号構成員である団体へお問合せください。
特定技能「漁業」の雇用形態
次に特定技能人材の雇用形態について見ていきます。漁業分野では、特定技能分野では珍しく、直接雇用に加え、派遣での受け入れが可能です。これは季節的な要因などで、外国人特定技能生が安定した賃金支払を受けられないリスクがあり、派遣人材が有効に機能すると判断されているためです。
直接雇用の場合
まず直接雇用を行う場合は、事業者と特定技能外国人材が直接雇用契約を結び、使役関係となります。注意点としては、以下の引用の通りです。
①特定技能外国人材を技能を要する作業(9ページ参照)に従事させるものであること
②所定労働時間が、同じ受入れ機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等で
あること
③報酬額が日本人が従事する場合の額と同等以上であること
④外国人であることを理由として報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用、その他の待遇について、差別的な取扱いをしていないこと
⑤一時帰国を希望した場合、休暇を取得させるものとしていること
⑥労働者派遣の対象とする場合、派遣先や派遣期間が定められていること
⑦特定技能外国人材が帰国旅費を負担できないときは、受入れ機関が負担するとともに
契約終了後の出国が円滑にされるよう必要な措置を講ずることとしていること
⑧受入れ機関が特定技能外国人材の健康の状況その他の生活の状況を把握するために必要な措置を講ずることとしていること
※特定技能外国人材はフルタイムで業務に従事することが求められますので、複数の企業が同一の特定技能外国人材を受け入れることはできません。
引用:水産庁「 特定技能外国人材の受入れ制度について (漁業分野)」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/attach/pdf/tokuteiginou-8.pdf
漁業・水産業や養殖業を外国人が主体的に行うことは、特定技能ではできません。特定技能外国人を船長や漁労長といったポジションに据えないように気を付ける必要があります。
派遣での受入れの場合
派遣受け入れ法人は以下の要件を満たす必要もあります。
ⅰ 労働,社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること。
法務省「外国人材の受入れ制度に係るQ&A」
ⅱ 過去1年以内に,特定技能外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者を離職させていないこと。
ⅲ 過去1年以内に,当該機関の責めに帰すべき事由により行方不明の外国人を発生させていないこと。
ⅳ 刑罰法令違反による罰則を受けていないことなどの欠格事由に該当しないこと。
https://www.moj.go.jp/isa/content/930003977.pdf
こうしたことから、法律面、労働環境面、そして人権の面から、受け入れ耐性の整っていない法人への派遣は難しいです。受け入れを検討する法人は事前に協議会での協議を行うなど、事前準備をしっかり行う必要があります。
また、派遣事業者(派遣会社)は以下の要件を満たす必要があります。
① 漁業又は漁業に関連する業務を行っている者であること
② 地方公共団体又は①に掲げる者が資本金の過半数を出資していること
③ 地方公共団体の職員又は①に掲げる者若しくはその役員若しくは職員が役員であることその他地方公共団体又は①に掲げる者が業務執行に実質的に関与していると認められる者であること
引用「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領 」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/attach/pdf/tokuteiginou-10.pdf
報酬
特定技能外国人の報酬額については、日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と同等以上であることが求められます。
転職
また、同業者内での転職も可能です。
ただし、特定技能外国人の転職が認められるのは、「同一の業務区分内、または試験等によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間」のみです。
農業の特定技能のみで来日した場合は農業以外の他業種へ転職することはできず、アルバイトも不可能です。
試験内容
特定技能「漁業」の在留資格を得るためにはまず、漁業の基礎知識を確認するための漁業技能測定試験と日本語能力試験に合格する必要があります。
詳しい試験内容と申し込みはこちら。
漁業技能測定試験
漁業技能測定試験は「漁業」と「養殖業」の技能分野に分かれ、「漁業」は漁船漁業職種の技能実習評価試験(専門級)の水準と同程度、「養殖業」は養殖業職種の技能実習評価試験(専門級)の水準と同程度の能力が求められます。
学科、実技共に、コンピューターを使うCBT方式かペーパーテスト方式です。
日本語能力試験
また、日本語能力試験のN4に合格するには、日常会話レベルの日本語力が必要です。JLPTでは「基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な文章を読んで理解できる」「ややゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できる」難易度と定義しています。
学習用テキスト
特定技能「漁業」勉強用のテキストや試験問題は大日本水産会のHPから無料でダウンロードが可能です。
試験申し込み
漁業技能測定試験(漁業)の申し込みはこちら。
漁業技能測定試験(養殖業)の申し込みはこちら。
試験日程・開催地
試験日程や開催地は、大日本水産会のHPで確認できます。2023年には日本のほかに、インドネシアで試験が開催されました。
【PR】特定技能人材の中途採用はスキルド・ワーカー
2019年に成立した在留資格「特定技能」により、日本国内に外国人人材の受け入れが始まりました。
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