特定技能「素形材産業」|制度のポイント
概要
特定技能の「素形材産業」は、 2019年4月に出入国管理法(入管法)が改正され、新設された在留資格です。
この新しい在留資格「特定技能」の追加により、外国人特定技能人材の採用が素形材産業でも可能となりました。これにより、モノづくりにおける中間投入財を扱う、素形材産業分野における外国人の雇用・就労が可能となり、今後の労働力不足の緩和が期待されます。
素形材産業分野、産業機械製造業分野、電気・電子情報関連産業分野の3分野は経済産業省の管轄となります。
特定技能「素形材産業」の受け入れ人数
特定技能「素形材産業」では、制度開始から5年間で21,500人を上限に外国人材を受入れる目標を定めています。
働ける期間
在留資格「特定技能」が追加されたことで、外国人人材の在留期間は最大で通算5年間の就労が可能になりました。
特定技能の受け入れには日本語力だけでなく、相当の知識、または経験が必要になるため、今後事業者は即戦力人材を技能実習人材よりも長期間に渡って雇用することができるようになります。
「素形材産業」の現状
人手不足
素形材産業の業界でも、人材の労働力不足は他業種に劣らず深刻な問題となっています。
経済産業省によると、2017年12月時点で、製造業の94%以上の大企業・中小企業において人手不足が顕在化しており、32%の企業は、「ビジネスにも影響が出ている」と回答したとのことです。併せて、人材確保に課題のある人材としては、「技能人材」が突出しています。
参考:経済産業省「製造業における人手不足の現状 および外国人材の活用について」https://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180712005/20180712005-2.pdf
有効求人倍率の推移
素形材産業における関連職種の有効求人倍率は2.83倍(鋳造、鍛造、金属プレス等)と言われています。
これまでIT化や女性・高齢者の受け入れなどを拡大し、生産性も拡大してきましたが、依然として人材の不足数は2017年時点で3万人。これが2025年には6.2万人の不足が出ると予測されています。
参考:経済産業省「製造業における人手不足の現状 および外国人材の活用について」https://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180712005/20180712005-2.pdf
このため、宿泊や外食などの業界に負けず劣らず、日本のものづくりを支える製造業での労働者不足は深刻で、雇用をする側にとって悩ましい問題となっています。
技能実習「製造業『素形材産業分野』」について
素形材産業分野は、技能実習における「機械・金属関係」に分類されます。
該当するのは、以下の⑫業種です。
②鍛造 (ハンマ型鋳造、プレス型鋳造)
③ダイカスト(ホットチャンバダイカスト、コールドチャンバダイカスト)
④機械加工(普通旋盤、フライス盤、数値制御旋盤)
⑤金属プレス加工(金属プレス)
⑥鉄工(構造物鉄工)
⑦工場板金(機械板金)
⑧めっき(電気めっき、溶融亜鉛めっき)
⑨アルミニウム陽極酸化処理(陽極酸化処理)
⑩仕上げ(治工具仕上げ、金型仕上げ、機械組立て仕上げ)
⑪機械検査(機械検査)
⑫機械保全(機械系保全)
技能実習 「製造業『素形材産業分野』」 の受入れ人数
2018年の技能実習における外国人労働者の受入人数は、電子電気・産業機械製造も合算して72,673名。
これは技能実習人材のなかで18.7%を占めています。
参考:外国人技能実習機構「平成30年度業務統計」
https://www.otit.go.jp/gyoumutoukei_2018/
特定技能「素形材産業」 受入れ可能な人材
特定技能制度下での人材の受け入れは原則として年齢18歳以上の即戦力に限ります。
そのため、日本語能力と業務遂行能力を持ち合わせていない場合は、基礎レベルの日本語や技術用語を学んだ上で受験を行わなければ採用は難しいでしょう。
その一方で、特定技能人材のメリットとして、在留期間が比較的長いことが挙げられます。技能実習は期間が3年と定められていることもあり、いずれは帰国する必要がありました。場合によっては不法滞在となってしまう外国人の存在も、一部マスコミなどで報道されています。
特定技能はこれが5年に延長され、さらに将来的に期限のない「2号」の認定も検討されていることから、労働者の定着を図るにも特定技能人材は技能実習生より適しているといえます。
受入れ対象外の人材の条件
受験資格が認められない人材として該当するのは、下記の通りです。
・「退学・除籍留学生」(所属していた教育機関における在籍状況が良好でないことを理由と
するものをいい,所定の課程を修了して卒業した者を含まない(在留資格「留学」に応じた
活動を行わないで在留していたことにつき正当な理由がある場合を除く。)。)
・「失踪した技能実習生」(在留資格「技能実習」に応じた活動を行わないで在留していたこ
とにつき正当な理由がある場合を除く。)
・「短期滞在」の在留資格を有する者
・在留資格の活動を行うに当たって計画(以下「活動計画」という。)の作成が求められるも
のであって,その活動計画の性格上,他の在留資格への変更が予定されていないもの(注1),
又はその活動計画により,当該活動終了後に特定の在留資格への変更又は在留期間の更新が
予定されているもの(注2)
(注1)その活動計画の性格上,他の在留資格への変更が予定されていないもの
・「技能実習」(計画の途中にあるものに限られ,当該計画を修了したものを除く。)
・「研修」(計画の途中にあるものに限られ,当該計画を修了したものを除く。)
・「特定活動(日本の食文化海外普及人材育成事業)」(計画の途中にあるものに限
られ,当該計画を修了したものを除く。)
・「特定活動(特定伝統料理海外普及事業)」
・「特定活動(製造業外国従業員受入促進事業)」
・「特定活動(インターンシップ)」
(注2)その活動計画により,当該活動終了後に特定の在留資格への変更又は在留期間の更
新が予定されているもの
・「特定活動(外国人起業活動促進事業)」(計画の途中にあるものに限られ,当該
計画を修了したものを除く。)
・「経営・管理(外国人創業人材受入促進事業)」(計画の途中にあるものに限られ,
当該計画を修了したものを除く。)
引用:出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」
http://www.moj.go.jp/content/001315380.pdf
逆に、上記に該当しない17歳以上の人物であれば受験は可能です。
5年で21,500人を受け入れるという目標があります。
どのような方法で、受入れられるか
①留学生への資格取得支援
まず国内に留学している留学生に国内試験を受け、特定技能の資格取得支援を行う方法です。留学しているため語学力の心配が少なく、また接点も多くなるでしょう。
②技能実習2号所持者に対する資格取得支援
また、現在すでに技能試験2号の在留資格を取得している場合、技能実習2号から在留資格を特定技能に移行させることができます。
例えばすでに受け入れている技能実習生を引き続き特定技能人材として受け入れる場合や、過去に受け入れていた技能実習生を再び呼び戻す際などに特定技能人材として受け入れるケースが考えられます。地方出入国在留管理局への申請が必要になりますが、スムーズな移行が可能です。
③海外で技能評価試験・日本語試験を支援
更に、特定技能人材向けの資格取得試験を海外で行う事例が、さまざまな業種・分野において見られるようになりました。
④短期来日での資格取得支援
日本国内で就業意欲のある外国人技能実習生を受け入れる場合は、国内で資格取得試験を受けてもらうことも考えられます。日程調整やパスポート、航空券の手配等で手間は比較的かかりますが、試験を経て特定技能人材に日本や職場を理解してもらいやすく、海外の現地試験よりも就業後のミスマッチは少なくなるでしょう。
また、日本に来ることに前向きな、やる気のある特定技能人材に絞って採用をかけられるのもメリットです。
特定技能「素形材産業」の業種・業務
任せられる業種、業務の詳細
素形材産業分野で雇用する場合、外国人は「製造分野特定技能1号評価試験」に合格する必要があります。
製造分野特定技能1号評価試験は業種ごとに13種に分かれ、それぞれの業種における加工や設備保全等の技術が上長の指導、または自発的に行えるレベルかどうかをチェックします。
なお、素形材産業が含まれる、任せられる業務・業種は以下の14業種、13業務です。
②鉄素形材製造業(225)
③非鉄金属素形材製造業(235)
④作業工具製造業(2424)
⑤バルブ、コックを除く配管工事用附属品製造業(2431)
⑥金属素形材製品製造業(245)
⑦金属熱処理業(2465)
⑧工業窯炉製造業(2534)
⑨弁・同附属品製造業(2592)
⑩鋳造装置製造業(2651)
⑪金属用金型・同部分品・附属品製造業(2691)
⑫非金属用金型・同部分品・附属品製造業(2692)
⑬車両用、船舶用を含むその他の産業用電気機械器具製造業(2929)
⑭工業用模型製造業(3295)
②鍛造
③ダイカスト
④機械加工
⑤金属プレス加工
⑥工場板金
⑦めっき
⑧アルミニウム陽極酸化処理
⑨仕上げ
⑩機械検査
⑪機械保全
⑫塗装
⑬溶接
付随する業務について
任せられる業種のほか、付帯する業務について、経済産業省発表資料には下記の通り示されています。
引用:経済産業省「製造業における 特定技能外国人材の受入れについて」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/gaikokujinzai/pdf/20200327.pdf
特定技能所属機関(受入れ企業)の要件
協議会への加入有無、いつまでに加入する必要があるか、加入条件など
特定技能人材の受入れ企業においては、製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会に加入する必要があります。
これは、経済産業省、法務省、地方自治体と、素形材産業分野・産業機械製造業分野・電気・電子情報関連産業分野の、いわゆる「製造業3分野」からなる組織で、特定技能人材の円滑かつ公平な受け入れを行おうとする機関となります。
参画法人は、製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会からの一般的な指導、報告の徴収、資料の要求、意見の報告又は現地調査の協力要請に従う必要もあります。
その他、必要な受け入れ条件
また、受入れる企業が、日本標準産業分類に掲げる産業を行っている必要があります。
雇用形態
特定技能「素形材産業分野」での雇用は、直接雇用のみと定められています。派遣での雇用は不可能です。
報酬
特定技能外国人の報酬額については、日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と同等以上であることが求められます。
転職
また、同業者内での転職も可能です。
ただし、特定技能生の転職が認められるのは、「同一の業務区分内、または試験等によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間」のみです。
素形材産業分野の特定技能のみで来日した場合は、産業機械製造業以外の業種へ転職することはできず、アルバイトも不可能です。
複数の特定技能資格を持つ場合は、在留資格の変更許可申請を出入国在留管理庁が管轄する施設に提出する必要があります。
試験内容
試験は「製造分野特定技能1号評価試験」と呼ばれ、経済産業省が運営を行っています。
現地語で出題され、9カ国の言語に対応する予定です。2020年1月にインドネシア・スラバヤで行われた溶接職種の試験はインドネシア語で行われました。
学科試験、実技試験からなり、コンピュータ・ベースド・テスティング(CBT)方式かペーパーテスト方式、あるいは実技では製作等作業試験方式を今後も予定しています。合格基準は学科試験の場合、65%以上の正答率となります。
実技試験の場合は、
・製作等作業試験方式を採用する試験区分判定方法は各々の試験区分により設定(溶接:手溶接作業はJIS Z 3801、半自動溶接作業はJIS Z 3841に基づいて判定)
・上記以外の試験区分:60%以上
となっています。
試験日程・開催地
現在、素形材産業を含む「製造分野特定技能1号評価試験」は経済産業省が管轄しており、日程についても経済産業省HPにて公開を予定しています。
一方、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴い、今後のスケジュールについては「令和2年度以降の試験日程については、詳細が決まり次第このページに掲載いたします。」と記載するにとどめています。https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/gaikokujinzai/sswm-exam.html
次回の試験日程や開催地、過去問についても未公開ですが、溶接分野については公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)が問題を一部公開しています。http://www.jwes.or.jp/mt/shi_ki/jitco/pdf/m_senmon.pdf
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