特定技能「宿泊」|外国人を雇用するために必要な準備・ステップ・注意点とは?
宿泊業界の現状
2018年、訪日外国人は3000万人を突破し、宿泊業界の市場規模は、過去10年間で最大を記録しました。このままさらなる成長が見込まれていた中、海外人材の採用が2019年の4月より解禁されました。
ところがその直後、コロナ禍によって事態は一変し、2020年にはその市場規模は2018年と比べて6割を割り込むほどに縮小しました。その後、厳しい状況は続きましたが、2022年10月から政府による水際対策が緩和されたことに伴い、それまで停止されていた外国人旅行者の受け入れが再開。2023年現在、宿泊業の市場は急速な回復フェーズに入っています。
一方で、受け入れ体制には不安が残ります。ホテルは年々増加傾向にある一方で、昔ながらの旅館は年々減少。そのため、宿泊施設の総数は差引では10年前と大きく変わっていません。また、ホテルが東京近辺に林立する一方で、地方部の宿泊施設が衰退し、ホテルの首都圏一極集中が起きています。
そんな中で、宿泊業界の運営面においては生産性向上が叫ばれています。IT化を行うなど、業務効率化を高める動きは各社に見られますが、まだまだ今後増加が見込まれる訪日外国人を受け入れるためのキャパシティに追いついているとは言い難い状況です。
コロナ禍前に、2030年には6000万人に達すると言われていた訪日外国人に対応するため、2019年の4月より解禁された海外人材の採用ですが、ここにきて市場の回復と共に再びその必要性が叫ばれています。この記事では、海外人材を宿泊業界が採用する際に必要な準備、ステップ、注意点を、なるべくわかりやすく解説していきます。
日本における宿泊業界の人手不足
現状、外国人観光客の受け入れ体制は万全とはいえない日本。特にボトルネックとなっているのが人材不足です。今後ますます、人手不足が激しくなっていくと言われています。
コロナ禍の緊急事態宣言やまん延防止措置の影響で、一時的に鎮静化していた宿泊業界の人材不足問題ですが、市場の回復と共に再び経営課題として持ち上がっています。しかもコロナ禍の影響で、状況は以前より深刻になっているとも言えます。総務省統計局の労働力調査を基に観光庁にて作成された資料によると、以下の状況が起きているとされています。
そのうち女性の占める割合は約66%と高く、
新型コロナウイルス感染症の拡大以前と比べ、
正規雇用者数は約6%減少したのに対し、非正規労働者は約14%減少。
非正規雇用者がより大きな影響を受けている。
引用:令和3年3月23日 国土交通省提出資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/corona_hiseiki/dai2/siryou2.pdf
「特定技能(宿泊)」「技能実習」
法務省は2018年、新たな外国人材受入れのための在留資格の創設等を行う法律を整備し、2019年4月より施行しました。この法律は簡単に言えば、海外人材を採用して、国内の人材不足を緩和するための法律。「出入国管理及び難民認定法」と「法務省設置法」の一部改定がこれにあたります。
人材不足の深刻な宿泊業界にも、外国人採用を行うためのメスが入ったこの法改正。新たに「在留資格(宿泊)」が追加されました。ホテル・旅館が海外人材の在留資格である「特定技能1号」の対象とされ、在留資格「特定技能」で日本人スタッフとほぼ同じ業務にあたることが出来るようになったのです。そのため、制度を活かすことで人材不足やインバウンドの対応に役立てることが可能になったと言えます。
特定技能1号とは、「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」と法務省によって定義されており、要は外国人を即戦力として採用できるようになったということになります。
政府は宿泊業界に対して令和5年までに22,000人を受け入れるとしてきましたら、新たに令和6年4月から5年間の受入れ人数として23,000人を見込んでおり、今後ますます、外国人採用が積極的に行われていくことが予測されます。
従来の「在留資格(宿泊)」「技能実習」との違いは、シンプルに言えば条件緩和です。受け入れ国の制限が原則なくなり、そのスキームも簡略化されました。従来の技能実習は、どちらかというと外国人に対して日本の技術を伝えるという国際貢献色が強かったのですが、今回の「特定技能」では人材不足の解消を前面に押し出しているため、雇用する側にとってはかなり使いやすい制度になっています。
在留資格の特定技能「宿泊」とは
在留資格「宿泊」に該当する外国人は、観光庁によると「フロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」と幅が広い範囲の業務を行うことが出来ます。
これまでは、ホテル等で外国人を雇用する場合は「経営管理」「技能、人文知識、国際業務」といった在留資格が必要でしたが、今後は宿泊部門のドアマンやハウスキーピング、飲食部門のレストランスタッフや宴会スタッフとしてならば、特定技能の在留資格「宿泊」で雇用が可能です。ただし、在留資格「宿泊」分野は特定技能の1号に該当するため、日本での就労は通算5年までに制限されます。5年を超えての雇用や、採用した海外人材の家族を呼び寄せて暮らすことは認められていないので、採用する予定の人材には業務を行わせる前にしっかりと5年以内の契約であることを伝えましょう。なお特定技能の2号に該当すると年数の制限なく雇用が出来ますが、現在認められている業種は建設業と造船業に限られます。
【おすすめ記事】
在留資格「特定技能」に関しては、こちらの記事をご覧ください。
特定技能の資格を取得するには(試験・申請書類・提出先)
特定技能1号を海外の方が取得する場合、試験と申請書の作成をした上で合格証明書を受け取るという3ステップが必要になります。
まずは、宿泊業技能測定試験。特定技能で新たに認められた14の業種のうち、宿泊業と外食業だけは従来の技能実習制度で認められませんでした。そのためホテルや旅館などの宿泊業で特定技能の外国人を雇用する場合、試験を受ける必要があります。この試験にパスするためには、資格取得には最低限の日本語読解力と、宿泊業務をする上で即戦力になるレベルの知識が必要となります。そのため募集をかける際は、海外のホテルや宿での勤務経験がある、即戦力人材に絞るのがよいでしょう。求人広告や現地での説明会を行い、採用資格を満たし、かつ試験にパスできる人材が必要です。試験内容などの詳細については後述します。
この試験に合格すると、受け入れ予定の企業は合格証明書を発行できるようになります。合格証明書は自動発送ではなく、企業から申請しなければ交付されないため、注意が必要です。一般社団法人宿泊業技能試験センターのホームページにある、合格証明書申請書類取り寄せフォームに必要事項を記入した上で、宿泊業技能試験センター宛へ郵送。すると、宿泊業技能試験センターから手数料納付の案内がメールで届きます。メールに従い交付手数料1万円を納付したことを確認すると、はじめて合格証明書が郵送されてきます。
受入れできる事業所・雇用形態・任せられる業務・報酬について
受け入れ時の詳細については、一般社団法人宿泊業技能試験センターが示しています。大まかには3つの注意点があり、特定技能「宿泊」を取得した外国人は
- 旅館業法の「旅館・ホテル営業」の許可を受けている施設が対象
- 「風俗営業法(風営法)」に該当する施設では受け入れができない
- 風営法の「接待」を行わせることも禁止
また雇用は原則、直接雇用の正社員に限られます。間接雇用(人材の派遣会社を介する等)は農業と漁業を除いて、法律上不可能です。また報酬条件も日本人と同等か、それ以上が必要です。
特定技能の外国人が出来る業務は「フロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」と定義されていますが、それ以外の業務を全く認めないわけではありません。実際、宿泊業技能試験センターでも「これらの業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:館内販売、館内備品の点検等)に付随的に従事することは可能」と定めています。理由は、通常従事することとなる業務については、本来業務と関連性があると考えられるというのが法務省の見解であるため。もちろん、多少の範囲外業務は認められているとはいえ、任せすぎるのはリスクが大きいと言えるでしょう。なるべく明文化されている業務を中心に外国人人材を活用していくのをおすすめします。 なお「技能実習」と異なり、同業種間での転職は認められています。
特定所属機関(受入れ企業)の注意点
企業がこうした特定技能の外国人人材を募集し、採用する前に気をつけたいこととして2点が挙げられます。
ひとつは、就労ビザ申請において各宿泊業者から入国管理局へ向けての審査が必要となることが挙げられます。技能実習の場合は事業協同組合が一括して申請を行っておりましたが、特定技能に関しては受け入れ側のホテルや旅館が個別に申請を行う必要があります。審査も行われるため、経営状況が芳しくない場合、受け入れが難航する可能性があります。
またもうひとつは、周到な受け入れの準備が必要なことが挙げられます。雇用の計画はもちろん、報酬や住居などの生活面、語学の支援やスタッフとの交流など、さまざまな準備やシミュレートが必要です。
受け入れ体制としては、住居面の支援が特に必要になってくることと思われます。たとえば農林水産省が示す農業分野の特定技能外国人受け入れ体制としては、
1 | 宿舎は火災による危険のある場所、衛生上有害な作業現場、被災の恐れがある場所などの付近を避けること |
2 | 寝室が2階以上にある場合は、簡単に屋外に通じる階段を2カ所以上設けること |
3 | 十分な消火設備を設置していること |
4 | 寝室は一人一人の十分なスペースを確保し、日当たりが良く、採暖の設備を設けること |
5 | 就眠時間が違う2組以上の実習生がいる場合、寝室を別にすること |
6 | 食堂又は炊事場は衛生環境を整備し、病害虫を防ぐこと |
7 | トイレ、洗面所、洗濯場、浴場を設置し、清潔にすること |
8 | 宿泊施設が労働基準法に基づく「事業の附属寄宿舎」に該当する場合は、所定の届出等を行っていること |
と、かなり細かく指定されています。技能実習生の劣悪な労働環境が問題となったこともありましたが、こうした法律で定められた各種ルールに違反した場合、30万円以下の罰金や過料を請求されることがあるので、注意が必要です。
受入れ人数の上限
宿泊の分野に関しては、特定技能の外国人受け入れに上限数はありません。現状で上限を設けているのは建設と介護のみ。両者は、受け入れ外国人の上限を受け入れ先施設の常勤職員と同等と規定しています。簡単に言えば日本人と同じ数まで特定技能の外国人を受け入れ可能ということであり、今後、ホテルや旅館の特定技能人材に上限が設けられるとしても、現在の介護・建設分野に準じた形になることが予測されます。
特定技能協議会への加入
特定技能の在留資格(宿泊)で外国人を雇用する場合、受け入れ企業は特定技能協議会に加入をする必要があります。特定技能外国人の保護や受け入れ、また体制づくりのために設置されており、特定技能外国人が入国した4カ月以内に加入をする必要があるので、注意が必要です。
業種によっては加入を任意としているところもありますが、宿泊業界においては加入義務があります。特定技能の外国人を採用する予定がある場合、国土交通省の所管する、宿泊分野特定技能協議会に加入しましょう。なお、この団体に加入したからといって、宿泊事業者団体の加盟が義務づけられることはありません。
宿泊技能評価試験
宿泊技能評価試験は、宿泊業界における技能測定を行う試験です。この試験で必要なのは、日本語力とホテルや旅館における業務の知識です。
また「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」、もしくは「日本語能力試験(JLPT)N4以上」も受験する必要があります。特定技能の在留資格取得のため、日本語能力試験のN4以上、または国際交流基金日本語基礎テストに合格している必要があるからです。(既に日本語能力試験のN4以上を取得している方の受験は不要)
この「N4」について日本語能力試験を運営するJLPTは、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な文章を読んで理解できる」「ややゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できる」と定義している。業務をこなすのに必要な日常会話レベルの日本語力は必須と言えます。
受験資格
宿泊技能評価試験の内容は、日本語でのテキスト試験と、口頭での実技試験の2つです。受験資格は17歳以上であり、在留資格を持っていること(短期滞在でも受験可能)です。不法残留者等は引き続き受験不可となります。
※ただし,試験に合格することができたとしても,そのことをもって「特定技能」の在留資格が付与されることを保証したものではなく, 試験合格者に係る在留資格認定証明書交付申請又は在留資格変更許可申請がなされたとしても,必ずしも在留資格認定証明書の交付や在留資格変更の許可を受けられるものではないことにご留意願います。
引用:法務省「試験の適正な実施を確保するための分野横断的な方針」
試験日程・開催場所
試験は国内外で開催されます。
国内は下記のような主要都市で試験開催となります。
- 札幌
- 仙台
- 東京
- 名古屋
- 大坂
- 広島
- 福岡
- 那覇
試験により、会場や開催日時が異なる場合もありますので、最新の情報は以下サイトよりご確認ください。
一般社団法人宿泊業技能試験センター https://caipt.or.jp/
★2024年4月24日にベトナムでの試験の予約受付が開始しました!
詳しくはこちら
試験申し込みはウェブから行うことが可能です。
申込みの際は証明写真データが必要となりますので、事前に準備しておきましょう。
また受験料として7,000円も必要です。
試験内容・サンプルテキスト問題集
2020年度からはiPadによる試験を実施しており、学科は全30問で45分間の正誤ならびに口頭での実技試験となります。
所要時間は合計70分程度です。
一般社団法人宿泊業技能試験センターが公開している筆記試験の問題には、以下のようなものがあります。回答はテキストの問題を○✕で答えるマークシート式。
(例)
・ホテルのチェックインとチェックアウトの時間は法律で定められている。 | (✕) |
・日本に住所のない外国人のお客様には、チェックイン時にパスポートの提示を求めてコピーを保管する。 | (○) |
・ホテルを宣伝するためにホテルの館内で撮影した写真であれば、お客様が写り込んでいても、誰にも許可を得ずに使用することができる。 | (✕) |
・メニューの注文を受ける時は、お客様に食物アレルギーがあるか確認する。 | (○) |
・予約のあるお客様をテーブルに案内する時は、予約を入れた方を必ず上席に案内する | (✕) |
(https://caipt.or.jp/tokuteiginou)
「一般社団法人 宿泊業技能試験センター」の創設と位置づけ
一般社団法人宿泊業技能試験センターは特定技能「宿泊」の在留資格において、在留資格取得に必要な評価試験を実施する機関です。法人は2018年の9月に設立されています。
特定技能(宿泊)の外国人採用において、試験の合格者と受入れ企業の双方からの申請を確認し、合格証書の交付などを行います。
外国人人材の採用時には、この法人が発行する合格証明書が必須となるため、外国人の特定技能生に内定を出した際は同法人に問い合わせた上で、証書の交付申請が必要となります。
特定技能人材の採用をお考えの皆様へ
今まで外国人材を雇用された経験のない企業様も多いのではないでしょうか。
・日本語でのコミュニケーションに問題はないか?
・どのような仕事を任せられるのか?
・どの国の人材が良いのか?
・雇用するにあたり何から始めればよいのか?
…など、様々不安や疑問があるかと思います。
外国人材採用をご検討の方、是非一度お問い合わせくださいませ。
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